コラム「伸縮自在」
第9回
「中欧プラハの空の下から」 音楽の街で想うこと(その3)
この街で活躍している日本人音楽家は私が認識しているだけでバレリーナも含めて5人.留学生はたくさんいるようですが,留学するだけなら,特に日本円を持っている身には物価の安いチェコですから,行くのは簡単.でもこの街の音楽のレベルから言って,そこで椅子をゲットしたり定評を得たりするのは大変です.だから彼らはすごいと思う.
さて,その中の2人の方と直接話をする機会がありました.1人はかつて我が倉管が中国二期会で「カルメン」をやらせてもらったときに歌っておられ,今はプラハが誇るオペラハウス・国民劇場(Narodni Divadlo)などで歌っておられるソプラノの慶児(けいこ)道代さん.この方はたくさんいるチェコ人の歌手を押しのけて,メインで歌っているすごい歌手ですが,まことに謙虚.私などが「今日の指揮者は・・・」などと感想を言っても,いちいち聞いて下さって,細かく裏話を教えてくださる.なかなかプロとして活動している人で感想を言って,それに丁寧に応えてくれる人は多くないと思います.
もう1人は,99年に日本ツアーも行ったPraha Komorni Filharmoni のヴィオラ奏者の方.オケのメンバーなので,名前を挙げることは控え,若い女性だということだけ申し上げましょう.彼女とは会って話をする時間はそう多くなかったのですが,電子メールで色々コメントをいただきました.プラハでの楽譜購入に関するアドヴァイスをいただいたり.彼女からのメールから,本人には了解を取っていませんが,一節を引用しましょう.
私は,プラハフィルのメンバーで,弦楽四重奏を組み,活動をはじめました。 オケと、ビエロフラーベック(うちの主席指揮者です)の承認を得て,プラハフィル弦楽四重奏と名乗っております。 うちのメンバーの第一ヴァイオリンの2人と,チェロのトップと私です。 忙しいオケの間をぬって、わたしの師である,元スメタナのM.Skampa氏の指導のもと,勉強と,活動の日々です。 いい音楽を目指すのに,いつでも研究し,勉強していく事は欠かせません。 いいメンバーにめぐり合えるのが難しいカルテットですが、今のところ4人の息も合い,将来的に長く続けられたらと言うのが4人の夢です。 演奏の場も勿論大切に,これから増えていく事を願っております。
ちゃんと自分の椅子を持っているこうした奏者でも,さらなる発展を考えている.そしてアマチュア音楽家相手にでもここまで謙虚にはっきり言うのです.
他にもこうした経験はたくさんしました.このヴィオラ奏者と私を引き合わせてくださった,このオケの別のチェコ人のヴィオラ奏者の方は,こちらもまたソロ活動などをしておられて立派な奏者(若い女性)ですが,やはり同じように謙虚に話される.私(筆者)がアマチュアでこんな活動をしています,というと非常に丁寧に話を聞いてくれる.観光客相手の仕事だって一生懸命やるけど,まわりにはそうでない人もいるから・・・とか.またこのヴィオラ奏者に紹介してもらったやはりチェコ人の若いトロンボーン吹きは「じゃあ今から飲みに行かないか?オレがおごるぜ」と誘ったところ「だめだ,帰って今からさらうんだ」と.時に夜9時.その彼はまだ常勤の椅子をゲットしていませんが,あちこちにトラで出まくっている人.しかもチェコではみんな給料が安いから,1食でも安く浮かせようというのは正直なところです.でも彼はそういう.
こうした若いプロの音楽家たちの,ひたむきな,まじめな,そして謙虚な姿を見て,自分自身も大いに反省させられました.(Sobu)